8/5/2025

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ドリアンモードのススメ

ドリアンモードとは

ドリアンモードとは、ナチュラルマイナーの6度をシャープさせた音階です。

まず普通の短音階(短調の音階)を考えます。例えば、Eから始まる短音階(Eナチュラルマイナー)は以下のようになっています。

E F# G A B C D

そして6度の音をシャープさせます(半音上げます)。

E F# G A B C# D

これがEドリアンです。6度が上がっただけのことですが、いわゆるメジャー・マイナー・あとメロディックマイナーとかハーモニックマイナーとは世界が異なります。『ドリアンモード』という世界観があるのです。

ドリアンモードのコード進行

ドリアンの世界観を最大限に表現するため、モードではコード進行を希薄化します。

|Em    |Em    |Em    |Em  // こんなコード進行になる

|Em    |A7    |Em    |A7  // ドリアンの場合、こういう進行も

ベースがずっとEで、その上にドリアンモードの構成音を基本とした伴奏が乗るというイメージです。仮に3音以上のハーモニーを使っていても、コード(和音)というイメージではなくなります。

ドリアンモードの求め方(伝統的なやりかた)

なお、ドリアンを求めるのに、『ドレミファソラシドをレから始める』という考え方が使われることがあります。

ドレミファソラシド // メジャー

レミファソラシドレ // ドリアン

たぶん歴史的には正しい求め方なのでしょう。リラやハープなどを弾く際、固定化されたチューニングのうち、どの音程から始めるかで雰囲気を変えるというテクニックが使われていたと思われます。でも現在の文脈でドリアンを求めたい場合は、ナチュラルマイナー -> 6度シャープのほうが早いです。

ドリアンの良いところ・うーんなところ

ドリアンを自分はよく使っており、数えたわけではないですが、ナチュラルマイナーより使っているのではないかと思います。

自分にとってドリアンの魅力は、6度シャープの音の『明るい濁り感』です。

長6度の音は、短3度という重要な音とぶつかります。なので濁りが生じますが、一瞬なら大丈夫です。

例えば、ギターやピアノで低いEの音を鳴らしっぱなしにしつつ、高い音域でB -> C# -> D と弾いてみると感じが出ます。

B C# D
x
x
x
E _  _

このC#の音の明るい濁り感は、ブルースのソロで長6度が出てきたときに似ていると思います。

逆に欠点というか難しい点もあって、ドリアンではCメジャー/AマイナーでいうFが使えません。

Cメジャー/AマイナーでいうFは、そこを起点にするにもよし、Cなどからつなぐもよしの万能コードなのですが、AのドリアンではFにシャープがつくので、F#m7-5に変身してしまうのです。

F#m7-5も味のあるコードですが( Sir Duke に使われています)、FやFmaj7、F6などの汎用性にはさすがに負けてしまいます。前述の通り、ドリアンではコード進行というものが希薄になるので自分は使わずになんとかごまかしています。

レッツドリアン

ドリアンを使った名曲には Miles DavisSo What 、作曲者不詳の Greensleeves などがあります。また、ゲーム音楽によく出てくるイメージがあります。自作も面白いよ!

#ドリアンモード #作曲 #dtm #milesdavis

7/19/2025

Song

#作曲 #lofi Nagoya Harpは今日もLofiだった Nagoya Harp(大正琴)音源を使いました コード進行: `C#m B F E` でFのところがキモ
DL
なし

7/4/2025

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作曲・草野正宗 スピッツの作曲における特徴

前置き

スピッツといえば、草野正宗による暗示的な歌詞や、心地いいドラム、うねりまくるベース、寄り添うようなギターアルペジオ、そして草野マサムネの歌声が特徴ですが、作曲もまた独特のものがあります(全部やないか)。

この記事ではスピッツの楽曲のほとんどを作曲している草野正宗(作曲時のクレジット表記)の、作曲法や特徴を考えてみます。

取り入れられるものが、必ずやあるはずです。

参考にしたのは、DOREMI から出ている「スピッツ ギター弾き語り 全曲集」です。「さざなみ CD」までの楽曲が収録されており、歌詞、コード進行、メロディが掲載されています。

特に歌詞の下にコードが書かれているいわゆる「コード譜」と、普通の楽譜の両方が載っているのがありがたいところです。当時 3,800 円もしましたが、損したとは思いません。

メロディ - フレーズの上下動

草野正宗が書くメロディは、フレーズを上下に平行移動することが多いです。

例えば「ヒバリのこころ」の A メロ部分では、

僕が君に出会ったのは

の部分が F 音を基本に、D 音に着地で、

冬も終わりのことだった

の部分が E 音を基本に、C 音に着地しています。

つまり同じ音型のフレーズを 2 度(一音)下げて繰り返しているのです。

このフレーズの並行上下移動は、スピッツの楽曲にとても多く見られます。

「胸に咲いた黄色い花」の A メロ部分では、

月の光

の部分が F#音からの上行フレーズ

差し込む部屋

が G 音からの上行フレーズです。

今回は同じフレーズを 1 音(2 度)上げている形ですが、ただでさえ上行フレーズなのに 2 度上がるので高揚感が出ていますね。ね。

別に 1 音(2 度)である必要はなく、3 度や 4 度変えても良いです。

例えば「チェリー」の A メロ、

君を忘れない 曲がりくねった道を行く

は C 音基本のメロディ -> A 音基本のメロディです。度数でいうと短 3 度下がっています。

このように同じフレーズを使い回すことで、メロディを印象付けつつ、展開も作ることができます。

メロディ - 実は器楽っぽいメロディ

草野マサムネのボーカルと歌詞の印象のせいで、なんとなく歌謡曲っぽいイメージがありますが、スピッツのメロディは器楽的だと思っています。

器楽的の定義を整理すると(自分の中で)

  1. 鼻歌的でない

  2. 大きな音程差

  3. アルペジオ的な動き

  4. 反復するフレーズ

などが挙げられるかと思います。

4.の反復は上の項目でも取り上げましたが、スピッツのメロディはフレーズを繰り返すことが多いです。

1.の鼻歌的というのはまた感覚的ですが、例えば、ペンタトニックスケールを適当に上下動するメロディは鼻歌的と言えます。

2.の大きな音程差は、例えば「サンシャイン」のサビです。

サンシャイン しろい

の「サンシャイン」の部分で G -> A と 短 7 度上に上がっています。「白い」の部分も C# -> B と短 7 度上で、しかも全体が上行しています。

ついでにいうと、あまりテンションノートを使わない草野正宗ですが、ここの「サンシャイン」、「白い」には 9 度のテンションが使われています。

歌いにくいと思います……。歌いにくさが逆に器楽っぽさを出しているのかもしれません。

3.のアルペジオ的な動きは、例えば「愛のことば」の A メロです。

限りある未来を 搾り取る日々から

「限りあ」の部分がアルペジオ的な動きで、F -> A -> C -> E と上行しています。Fmaj7 のコードをイメージしていると思われます(が、バックのコードは違います!)

「しぼりと」もそれに続いて、 D -> F -> A -> C と上行しています。3 度下行して繰り返しているパターンでもあります。

このように、スピッツのメロディは器楽的な要素が多く含まれています。

想像するに、草野マサムネはギターを弾きながらメロディを作っているのではないかと思いますが、それにしては「単音連打」的なメロディも多いのです。謎です。

メロディ - 単音連打

ブルーハーツからの影響直系の「8 分音符を連打する」メロディも多いところです。

中期からはブルーハーツからの影響はあまり見られなくなりますが、それでも「8 分音符音符を連打する」メロディは生き残っています。

例えば「ヒバリのこころ」の A メロ部分です。

僕が君に出会ったのは 冬も終わりのことだった

この部分は、8 分音符で「僕が君に出会ったのは」の部分が F 音を連打し、「冬も終わりのことだった」の部分が E 音を連打しています。

コード進行 - II7 の積極的な使用

スピッツの楽曲では、II7 のコードが積極的に使われています。

キーを C メジャーだと仮定すると、D7 のコードにあたり、構成音は(レ - ファ# - ラ - ド)です。

このコードにはいくつかの文脈があり、例えば「空も飛べるはず」のサビに出てくる D7 コードは、G に向かうドッペルドミナントの役割を果たしています。

C G Am | F G C | F G Em7 Am | D7 G

また、平行調のマイナーキー Am における 4 度のコードをイメージしていると思われる場合もあります。

次に挙げたのは「冷たい頬」のサビ部分です。

G E7 |Am D7 | F G | C

また、II7 はトニックの変形(トニック・ディミニッシュ)として使われることもあります。

例えば「夢じゃない」の A メロ部分です。

C G E7 Am | G D7 | F C D7 | F C D7 | G

このコード進行はよく分からないのですが、最後の D7 以外ドッペルドミナントとしての効果を持たないので、トニックの変形かなと思います。

コード進行 - メジャーとマイナーの境界を行く

スピッツのコード進行はシンプルだとよく言われます。

実際、そうなのですが、シンプルだけに解釈が多義的になることもまた多くあります。

例えば「プール」では A メロが C 始まり、サビが Am 始まりです。転調的な動きを挟まずにぬるっとメジャー・平行調のマイナーを行き来しています。

同様の動きは「愛のことば」でも見られます。

アレンジ - 半端な小節数・拍子数への意識

スピッツの楽曲がともすれば歌謡曲になりそうで微妙にロックバンドを保っているのは、一つには演奏の強度が高いことです。

しかし楽曲自体も、演奏したときの形を意識しているように思います。

半端な小節数・拍子数はこの表われであるかと。

例えば「美しい鰭」の A メロは 7/8 拍子で、B メロは 4/4 拍子です。

「うめぼし」には 2/4 拍子の半端な小節があります。

このような半端な小節数・拍子数自体が演奏の強度を高めているわけではないですが、草野正宗が演奏を意識して作曲しているのは確かだと思います。

終わりに

以上、スピッツの作曲における特徴をいくつか挙げてみました。

  • メロディの上下動
  • 器楽的なメロディ
  • 単音連打
  • II7 の積極的な使用
  • メジャーとマイナーの境界を行くコード進行
  • 半端な小節数・拍子数への意識

これらの特徴を取り入れることで、作曲に新しい視点を加えることができるかもしれません。

それほど難しい技術は無いと思うので(半端な小節数・拍子数は演奏が難しいですが)、ぜひ試してみてください。

#スピッツ #作曲 #コード進行 #メロディ #草野正宗

5/8/2025

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変わったトニックコードを探してみよう Python で探してみよう

概要

SoundQuest さんの記事を見ていたら、トニック/ドミナント/サブドミナントのとある理論書での定義が載っていました。

ここで、トニック/ドミナント/サブドミナントはそれぞれコードの機能を指します。

一般的には、トニックは安定、ドミナントは不安定、サブドミナントは中間的とされています。

また、ドミナント(特にドミナントセブンス)からトニックに移るコード進行は「解決感」があるとされています。

しかし IIIm の和音のように、トニックのようでもありドミナントのようでもある和音も存在します。 音楽は曖昧 であるため、トニックであるかを気にせずに IIIm を使って構わないと思います。

それはそれとして、定義付けというのは面白いものです。興味を惹かれたので、記事にしてみました。

トニック/ドミナント/サブドミナントの定義

ドミナント

  • ファを有し、かつシを有する

サブドミナント

  • ファを有し、しかしシは有さない

トニック

  • ファを有さない

雑感

トニックの定義には驚きました。ファがない限り、すべてトニックだというのです。

驚きましたが納得できる面もあります。まず IIIm はトニックに確定します。そして、ダブル・ドミナントとして使われていない場合の II7 は、確かにトニック的に使われることが多いと感じます。

例えばスピッツの曲にありそうな、 F G Am D7 F G C という進行ですが、この場合の D7 をトニックとも解釈できるのは便利だと思います。

ただし、この定義は一部のジャズ系理論書でのものであり、コンセンサスがあるわけではないようです。

応用

この定義を使えば、 II7 のような隠れトニックを探すことができます。

例えば C (ドミソ) はトニック、Dm (レファソ)はファがあるためサブドミナントです。エクセル(スプレッドシート)を使えば便利に探すことができます。

ここでは総当たりで探してみようと思い、エクセルやスプレッドシートではなく、Python で実装してみました。

Github にコードをアップしていますので、興味があればご覧ください。

ここではコードを分ける基準と、結果のみを書こうと思います。

ちなみに、全部キーは C メジャーを前提としています。

コードを分ける基準

こんなふうに書きました。

        if (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "B" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Dominant")
        elif (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "Ab" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Subdominant-Minor")
        elif "F" in Chord(current_chord).components():
            print("Subdominant")

        else:
            print("Tonic")
            tmp_tonic_list.append(current_chord)

Chord(current_chord).components() は和音の構成音を返す関数です。何度も書くはめになったので、本当は変数にすべきだったと思います。current_chord にはいろんな和音が入ってきます。

if で条件分岐しています。

  • "F" と "B" がある場合はドミナント
  • "F" と "Ab" がある場合はサブドミナントマイナー
  • "F" がある場合はサブドミナント
  • それ以外はトニック(tonic_list に追加)

さてどうなるか?

結果

Tonic List
[['C', 'Cm', 'Cmaj7', 'C7', 'Cm7', 'Csus2', 'Caug', 'Cdim', 'Cdim7', 'Cm7b5'],
 ['Dbm', 'Dbm7', 'Dbsus4', 'Dbsus2', 'Dbdim', 'Dbdim7', 'Dbm7b5'],
 ['D', 'Dmaj7', 'D7', 'Dsus4', 'Dsus2', 'Daug'],
 ['Eb',
  'Ebm',
  'Ebmaj7',
  'Eb7',
  'Ebm7',
  'Ebsus4',
  'Ebaug',
  'Ebdim',
  'Ebdim7',
  'Ebm7b5'],
 ['E',
  'Em',
  'Emaj7',
  'E7',
  'Em7',
  'Esus4',
  'Esus2',
  'Eaug',
  'Edim',
  'Edim7',
  'Em7b5'],
 [],
 ['Gb',
  'Gbm',
  'Gb7',
  'Gbm7',
  'Gbsus4',
  'Gbsus2',
  'Gbaug',
  'Gbdim',
  'Gbdim7',
  'Gbm7b5'],
 ['G', 'Gm', 'Gmaj7', 'Gsus4', 'Gsus2', 'Gaug', 'Gdim', 'Gdim7'],
 ['Ab',
  'Abm',
  'Abmaj7',
  'Ab7',
  'Abm7',
  'Absus4',
  'Absus2',
  'Abaug',
  'Abdim',
  'Abm7b5'],
 ['A', 'Am', 'Amaj7', 'A7', 'Am7', 'Asus4', 'Asus2', 'Adim', 'Adim7', 'Am7b5'],
 ['Bbaug', 'Bbdim', 'Bbdim7', 'Bbm7b5'],
 ['B', 'Bm', 'Bmaj7', 'B7', 'Bm7', 'Bsus4', 'Bsus2', 'Baug']]

非常にたくさんのコードがトニックらしさを持つことが判明しました。

トニックリストのうち、特に興味深いもの

D7

さきほども挙げた D7 ですが、G7 に進むダブル・ドミナントとして使われる以外は、トニックとして解釈可能なようです。

Dm がファを有するので勘違いしそうになりますが、D ファミリー自体はサブドミナント的であるわけではないということのようです。

よく F に進むのも、トニックとして解釈可能な状況証拠ですね。

Gm

Gm トニックなん?

まあ、Gm は C をベースにして Gm7onC の形を作ることがあるので、C との相性も良いのかもしれません。

B7

B7 が出てきたのは感慨深いです。

The Beatles の Sexy Sadie という曲で、 G F#7 C D というコード進行があるからです。

C における B7 は、G に移調すると F#7 になります。Sexy Sadie のコード進行を C に移調すると C B7 F G となります。

B7 から F というかなり面白いコード進行ですが、B7 がトニックなら理解可能です。

G

G はさすがにドミナントやろ? と思いますが定義上ファを含んでいないのでトニックとして解釈されています。

アイルランド風だったりすると G でもドミナントのえぐみが無かったりするので、そういう部分が反映されているのかもしれません。

F 系全滅

F の時点でファを含むので全滅してしまいました。

個人的には、ベースにファを使いハーモニーにファを含まない事が多い Fmaj7 あたりはトニックでも良い気がしましたが、定義上はダメですね。

まとめ

トニックの定義を知ったことから、総当たりでトニックコードを探してみました。

個人的には、D7 や B7 がトニックとして解釈されることが面白かったです。The Beatles の Sexy Sadie の謎が少し解けました。

注意: この記事では C メジャーであることが前提です。D7 がキー G メジャーのダブル・ドミナントとしても解釈できるように、一時転調が入ると話が変わると思います。

#作曲 #音楽理論