変わったトニックコードを探してみよう Python で探してみよう
概要
SoundQuest さんの記事を見ていたら、トニック/ドミナント/サブドミナントのとある理論書での定義が載っていました。
ここで、トニック/ドミナント/サブドミナントはそれぞれコードの機能を指します。
一般的には、トニックは安定、ドミナントは不安定、サブドミナントは中間的とされています。
また、ドミナント(特にドミナントセブンス)からトニックに移るコード進行は「解決感」があるとされています。
しかし IIIm の和音のように、トニックのようでもありドミナントのようでもある和音も存在します。 音楽は曖昧 であるため、トニックであるかを気にせずに IIIm を使って構わないと思います。
それはそれとして、定義付けというのは面白いものです。興味を惹かれたので、記事にしてみました。
トニック/ドミナント/サブドミナントの定義
ドミナント
サブドミナント
トニック
雑感
トニックの定義には驚きました。ファがない限り、すべてトニックだというのです。
驚きましたが納得できる面もあります。まず IIIm はトニックに確定します。そして、ダブル・ドミナントとして使われていない場合の II7 は、確かにトニック的に使われることが多いと感じます。
例えばスピッツの曲にありそうな、 F G Am D7 F G C という進行ですが、この場合の D7 をトニックとも解釈できるのは便利だと思います。
ただし、この定義は一部のジャズ系理論書でのものであり、コンセンサスがあるわけではないようです。
応用
この定義を使えば、 II7 のような隠れトニックを探すことができます。
例えば C (ドミソ) はトニック、Dm (レファソ)はファがあるためサブドミナントです。エクセル(スプレッドシート)を使えば便利に探すことができます。
ここでは総当たりで探してみようと思い、エクセルやスプレッドシートではなく、Python で実装してみました。
Github にコードをアップしていますので、興味があればご覧ください。
ここではコードを分ける基準と、結果のみを書こうと思います。
ちなみに、全部キーは C メジャーを前提としています。
コードを分ける基準
こんなふうに書きました。
        if (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "B" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Dominant")
        elif (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "Ab" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Subdominant-Minor")
        elif "F" in Chord(current_chord).components():
            print("Subdominant")
        else:
            print("Tonic")
            tmp_tonic_list.append(current_chord)
Chord(current_chord).components() は和音の構成音を返す関数です。何度も書くはめになったので、本当は変数にすべきだったと思います。current_chord にはいろんな和音が入ってきます。
if で条件分岐しています。
- "F" と "B" がある場合はドミナント
 
- "F" と "Ab" がある場合はサブドミナントマイナー
 
- "F" がある場合はサブドミナント
 
- それ以外はトニック(tonic_list に追加)
 
さてどうなるか?
結果
Tonic List
[['C', 'Cm', 'Cmaj7', 'C7', 'Cm7', 'Csus2', 'Caug', 'Cdim', 'Cdim7', 'Cm7b5'],
 ['Dbm', 'Dbm7', 'Dbsus4', 'Dbsus2', 'Dbdim', 'Dbdim7', 'Dbm7b5'],
 ['D', 'Dmaj7', 'D7', 'Dsus4', 'Dsus2', 'Daug'],
 ['Eb',
  'Ebm',
  'Ebmaj7',
  'Eb7',
  'Ebm7',
  'Ebsus4',
  'Ebaug',
  'Ebdim',
  'Ebdim7',
  'Ebm7b5'],
 ['E',
  'Em',
  'Emaj7',
  'E7',
  'Em7',
  'Esus4',
  'Esus2',
  'Eaug',
  'Edim',
  'Edim7',
  'Em7b5'],
 [],
 ['Gb',
  'Gbm',
  'Gb7',
  'Gbm7',
  'Gbsus4',
  'Gbsus2',
  'Gbaug',
  'Gbdim',
  'Gbdim7',
  'Gbm7b5'],
 ['G', 'Gm', 'Gmaj7', 'Gsus4', 'Gsus2', 'Gaug', 'Gdim', 'Gdim7'],
 ['Ab',
  'Abm',
  'Abmaj7',
  'Ab7',
  'Abm7',
  'Absus4',
  'Absus2',
  'Abaug',
  'Abdim',
  'Abm7b5'],
 ['A', 'Am', 'Amaj7', 'A7', 'Am7', 'Asus4', 'Asus2', 'Adim', 'Adim7', 'Am7b5'],
 ['Bbaug', 'Bbdim', 'Bbdim7', 'Bbm7b5'],
 ['B', 'Bm', 'Bmaj7', 'B7', 'Bm7', 'Bsus4', 'Bsus2', 'Baug']]
非常にたくさんのコードがトニックらしさを持つことが判明しました。
トニックリストのうち、特に興味深いもの
D7
さきほども挙げた D7 ですが、G7 に進むダブル・ドミナントとして使われる以外は、トニックとして解釈可能なようです。
Dm がファを有するので勘違いしそうになりますが、D ファミリー自体はサブドミナント的であるわけではないということのようです。
よく F に進むのも、トニックとして解釈可能な状況証拠ですね。
Gm
Gm トニックなん?
まあ、Gm は C をベースにして Gm7onC の形を作ることがあるので、C との相性も良いのかもしれません。
B7
B7 が出てきたのは感慨深いです。
The Beatles の Sexy Sadie という曲で、 G F#7 C D というコード進行があるからです。
C における B7 は、G に移調すると F#7 になります。Sexy Sadie のコード進行を C に移調すると C B7 F G となります。
B7 から F というかなり面白いコード進行ですが、B7 がトニックなら理解可能です。
G
G はさすがにドミナントやろ? と思いますが定義上ファを含んでいないのでトニックとして解釈されています。
アイルランド風だったりすると G でもドミナントのえぐみが無かったりするので、そういう部分が反映されているのかもしれません。
F 系全滅
F の時点でファを含むので全滅してしまいました。
個人的には、ベースにファを使いハーモニーにファを含まない事が多い Fmaj7 あたりはトニックでも良い気がしましたが、定義上はダメですね。
まとめ
トニックの定義を知ったことから、総当たりでトニックコードを探してみました。
個人的には、D7 や B7 がトニックとして解釈されることが面白かったです。The Beatles の Sexy Sadie の謎が少し解けました。
注意: この記事では C メジャーであることが前提です。D7 がキー G メジャーのダブル・ドミナントとしても解釈できるように、一時転調が入ると話が変わると思います。
#作曲 #音楽理論