10/31/2025

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偶成和音としてのⅦ7コード -Sexy Sadieのなんか死にそうなコード-

あらまし

ザ・ビートルズに Sexy Sadie という楽曲があります。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/2tBv9tAdqEbLNDi5smSjbg?si=091eb6e4c1c74cc0

素晴らしい楽曲ですね。歌っているのはジョン・レノンで作曲もおそらくジョン。ビートルズはだいたい歌っている人が作曲者です。

この曲のAメロ的な部分(ヴァース)で、ジョンが "Sexy Sadie" と歌うところでなんか死にそうな響きになる瞬間があると思います。あの瞬間のコードは F#7 。曲全体のキーはGです。7度のセブンスということになります。

この VII7 コードの意味を探ろうぜというのが今回の記事です。

部分転調説

あの部分のコード進行はこんな感じです。

G -> F#7 -> Bm

詳しい人は思うかもしれません。このF#7はBmに向かうためのセカンダリードミナントではと。

その解釈もありだと思います。この部分のコード進行を全体としてみると、 キー: Bm における丸の内サディスティック進行(Just the Two of Us進行)と同じです。この部分のみ Bm に転調しており、 F#7 が出現したのはその結果だと見ることもできます。

しかし、いくらジョン・レノンでもAメロのどアタマで転調するか? という疑問はあります。あとなんかメロディが転調してるっぽくないです(主観)。

平行移動説

G -> F# という部分に着目し、和音を平行移動したんだよという説もありです。

ジョン・レノンは和音の平行移動を大々的に使った I Am The Walrus という曲を書いています。 Sexy Sadie もその流れで書いたと見ることはできます。

しかし F# だけセブンスコードなのが難点です。しかもメロディも F# のセブンス音(E音)に落ち着いているように聞こえます。

偶成和音説

そこで偶成和音説です。偶成和音とは、例えば上モノが半音上昇しているときにたまたまベースが半音下行してできた(そういう解釈のできる)ブラックアダー・コードが代表例。構成音がそれぞれ別の理由で動いて結果としてできたコードという説明でたぶん大丈夫です。

キー: G の場合の F#7 はどういう理由で発生したのか。これも上モノとベースに分けて考えます。

- F#7: 
	- F# (ベース) 
	- A# C# E (上モノ)

上モノは C#dim コードを構成しています。この C#dim は、 Gdim7 のルート省略とみなすことができると思います。

ブルースにおいて、 Cdim7 -> C7 のようなディミニッシュからの解決はままあること。 C#dim も G7 に解決することが可能であるはずです(自分の耳では可能でした)。

そしてベースの F# は G に解決するクロマティック・アプローチであると考えられます。ベースの世界では半音上に解決というのは非常によくあります。

つまりこの F#7 は、実際には Gdim7 on F# (omit G) みたいな和音ではないかということです。 Gdim7 は Gにブルース的に解決し、 F# は G にベースライン的に解決する。

この説の弱点は、 F#7 の次のコードが G ではないということです(Bm)。たぶんジョンは G -> F#7 -> G -> F#7 というふうにコードを行ったり来たりしながらモチーフフレーズを書いたのではないかと妄想していますが、しょせん妄想です。

音楽最高

音楽は曖昧だからこそ楽しいのだと思います。 F#7 ( VII7 )という一つのコードにいろいろ解釈が出てくるのが楽しい……。

ジョン・レノン本人はどこまで考えていたか不明ですが……。感覚派に見えて、けっこう考えている人なんじゃないかなと思います。

#音楽理論 #コード進行

5/8/2025

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変わったトニックコードを探してみよう Python で探してみよう

概要

SoundQuest さんの記事を見ていたら、トニック/ドミナント/サブドミナントのとある理論書での定義が載っていました。

ここで、トニック/ドミナント/サブドミナントはそれぞれコードの機能を指します。

一般的には、トニックは安定、ドミナントは不安定、サブドミナントは中間的とされています。

また、ドミナント(特にドミナントセブンス)からトニックに移るコード進行は「解決感」があるとされています。

しかし IIIm の和音のように、トニックのようでもありドミナントのようでもある和音も存在します。 音楽は曖昧 であるため、トニックであるかを気にせずに IIIm を使って構わないと思います。

それはそれとして、定義付けというのは面白いものです。興味を惹かれたので、記事にしてみました。

トニック/ドミナント/サブドミナントの定義

ドミナント

  • ファを有し、かつシを有する

サブドミナント

  • ファを有し、しかしシは有さない

トニック

  • ファを有さない

雑感

トニックの定義には驚きました。ファがない限り、すべてトニックだというのです。

驚きましたが納得できる面もあります。まず IIIm はトニックに確定します。そして、ダブル・ドミナントとして使われていない場合の II7 は、確かにトニック的に使われることが多いと感じます。

例えばスピッツの曲にありそうな、 F G Am D7 F G C という進行ですが、この場合の D7 をトニックとも解釈できるのは便利だと思います。

ただし、この定義は一部のジャズ系理論書でのものであり、コンセンサスがあるわけではないようです。

応用

この定義を使えば、 II7 のような隠れトニックを探すことができます。

例えば C (ドミソ) はトニック、Dm (レファソ)はファがあるためサブドミナントです。エクセル(スプレッドシート)を使えば便利に探すことができます。

ここでは総当たりで探してみようと思い、エクセルやスプレッドシートではなく、Python で実装してみました。

Github にコードをアップしていますので、興味があればご覧ください。

ここではコードを分ける基準と、結果のみを書こうと思います。

ちなみに、全部キーは C メジャーを前提としています。

コードを分ける基準

こんなふうに書きました。

        if (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "B" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Dominant")
        elif (
            "F" in Chord(current_chord).components()
            and "Ab" in Chord(current_chord).components()
        ):
            print("Subdominant-Minor")
        elif "F" in Chord(current_chord).components():
            print("Subdominant")

        else:
            print("Tonic")
            tmp_tonic_list.append(current_chord)

Chord(current_chord).components() は和音の構成音を返す関数です。何度も書くはめになったので、本当は変数にすべきだったと思います。current_chord にはいろんな和音が入ってきます。

if で条件分岐しています。

  • "F" と "B" がある場合はドミナント
  • "F" と "Ab" がある場合はサブドミナントマイナー
  • "F" がある場合はサブドミナント
  • それ以外はトニック(tonic_list に追加)

さてどうなるか?

結果

Tonic List
[['C', 'Cm', 'Cmaj7', 'C7', 'Cm7', 'Csus2', 'Caug', 'Cdim', 'Cdim7', 'Cm7b5'],
 ['Dbm', 'Dbm7', 'Dbsus4', 'Dbsus2', 'Dbdim', 'Dbdim7', 'Dbm7b5'],
 ['D', 'Dmaj7', 'D7', 'Dsus4', 'Dsus2', 'Daug'],
 ['Eb',
  'Ebm',
  'Ebmaj7',
  'Eb7',
  'Ebm7',
  'Ebsus4',
  'Ebaug',
  'Ebdim',
  'Ebdim7',
  'Ebm7b5'],
 ['E',
  'Em',
  'Emaj7',
  'E7',
  'Em7',
  'Esus4',
  'Esus2',
  'Eaug',
  'Edim',
  'Edim7',
  'Em7b5'],
 [],
 ['Gb',
  'Gbm',
  'Gb7',
  'Gbm7',
  'Gbsus4',
  'Gbsus2',
  'Gbaug',
  'Gbdim',
  'Gbdim7',
  'Gbm7b5'],
 ['G', 'Gm', 'Gmaj7', 'Gsus4', 'Gsus2', 'Gaug', 'Gdim', 'Gdim7'],
 ['Ab',
  'Abm',
  'Abmaj7',
  'Ab7',
  'Abm7',
  'Absus4',
  'Absus2',
  'Abaug',
  'Abdim',
  'Abm7b5'],
 ['A', 'Am', 'Amaj7', 'A7', 'Am7', 'Asus4', 'Asus2', 'Adim', 'Adim7', 'Am7b5'],
 ['Bbaug', 'Bbdim', 'Bbdim7', 'Bbm7b5'],
 ['B', 'Bm', 'Bmaj7', 'B7', 'Bm7', 'Bsus4', 'Bsus2', 'Baug']]

非常にたくさんのコードがトニックらしさを持つことが判明しました。

トニックリストのうち、特に興味深いもの

D7

さきほども挙げた D7 ですが、G7 に進むダブル・ドミナントとして使われる以外は、トニックとして解釈可能なようです。

Dm がファを有するので勘違いしそうになりますが、D ファミリー自体はサブドミナント的であるわけではないということのようです。

よく F に進むのも、トニックとして解釈可能な状況証拠ですね。

Gm

Gm トニックなん?

まあ、Gm は C をベースにして Gm7onC の形を作ることがあるので、C との相性も良いのかもしれません。

B7

B7 が出てきたのは感慨深いです。

The Beatles の Sexy Sadie という曲で、 G F#7 C D というコード進行があるからです。

C における B7 は、G に移調すると F#7 になります。Sexy Sadie のコード進行を C に移調すると C B7 F G となります。

B7 から F というかなり面白いコード進行ですが、B7 がトニックなら理解可能です。

G

G はさすがにドミナントやろ? と思いますが定義上ファを含んでいないのでトニックとして解釈されています。

アイルランド風だったりすると G でもドミナントのえぐみが無かったりするので、そういう部分が反映されているのかもしれません。

F 系全滅

F の時点でファを含むので全滅してしまいました。

個人的には、ベースにファを使いハーモニーにファを含まない事が多い Fmaj7 あたりはトニックでも良い気がしましたが、定義上はダメですね。

まとめ

トニックの定義を知ったことから、総当たりでトニックコードを探してみました。

個人的には、D7 や B7 がトニックとして解釈されることが面白かったです。The Beatles の Sexy Sadie の謎が少し解けました。

注意: この記事では C メジャーであることが前提です。D7 がキー G メジャーのダブル・ドミナントとしても解釈できるように、一時転調が入ると話が変わると思います。

#作曲 #音楽理論