5/3/2025

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90 年代のジョニを聴こう

概要

#ジョニ・ミッチェル の 90 年代のアルバムを聴いています。

ジョニの全盛期といえば 70 年代だと思われます。Ladies of the Canyon を皮切りに、Blue や Court and Spark, Hejira などタイトルだけで強すぎる名盤が続きます。

しかしながら 90 年代のアルバムも捨てがたい。70 年代のソプラノ・ボイスからアルト気味に歌い方が変わっているのですが、それに象徴されるように、深みと円熟味を増しているように思います。

ジョニが 90 年代にリリースした(オリジナル・フルレンス)アルバムは以下の 3 枚です。

  • Night Ride Home (1991)
  • Turbulent Indigo (1994)
  • Taming the Tiger (1998)

また、96 年には 2 枚セットのベストアルバムもリリースされています

  • Hits (1996)
  • Misses (1996)

この記事では 3 枚のオリジナルアルバムを中心に、90 年代のジョニを振り返ります。

90 年代の音楽シーンを振り返る

音楽シーンを振り返ったときに、一般的に 90 年代はグランジ、オルタナ、ブリットポップ、シューゲイザーなどのキーワードで語られます。80 年代にちょっと鳴りを潜めていたロック系の音楽が復活した時代です。

ついでにいえば、ヒップホップも強かったです。A Tribe Called Quest や Notorious B.I.G. など、ビッグネームが活躍していた時代です。が、ジョニにはあまり関係ないですね……。

90 年代はアクの強かった 80 年代の反省からか、やや 70 年代に回帰する流れがあったように思います。ニール・ヤングは Harvest Moon を出しましたし、ボブ・ディランは Time Out of Mind を出しました。ヴァン・モリソンは Days Like This や The Healing Game など好調を維持していましたし、ポール・サイモンは The Rhythm of the Saints という個人的に好きなアルバムを出しています。彼らのような、60 ~ 70 年代のスターが再び輝きを放ち始めていました。

女性シンガー・ソングライター・シーンが盛り上がっていたのも 90 年代の特徴です。アラニス・モリセットやフィオナ・アップル、シェリル・クロウ、エイミー・マンなどがデビューしました。ビョークも Debut というタイトルのアルバムを出しました。

これらの流れは緩やかにジョニにも影響を与えたのではないかと思います。時代のせいなのかたまたまなのか、ジョニもまた 90 年代に入って輝きを増しました。ただし、70 年代のスタイルとはけっこう変わっています。

90 年代ジョニのスタイルの変化

90 年代のジョニのスタイルは、バンド全体トータルのアレンジを洗練させているように思います。60 年代後半~ 70 年代前半のジョニはしばしば弾き語りスタイルでした。ジャズ系のアーティストを多数起用した Court and Spark や、ジャコ・パストリアスとのコラボレーションが含まれた Hejira など、バンド然としたアルバムもあるのですが、明らかにフロントマン(ウーマン)のジョニが目立っていました。

それに比べると 90 年代では、バンドがアンサンブルしているように思います。また、プリンス(80 年代の重要人物)がジョニ好きなのは有名ですが、逆にジョニもプリンスの影響を受けているように思います。ギターを弾ききらず、敷き詰めずに、必要な部分だけに音を置いていくアレンジが目立ちます。

シンセサイザーが多用されているのも 90 年代ジョニの特徴です。主にベースとしての役割や、パッドとしての役割を果たしていますが、パッドにしては妙に音がでかいのが特徴です。ジョニには 70 年代の Hissing of Summer Lawns などのように、シンセサイザーを使ったアルバムもありますが、90 年代のそれはより強い印象を持ちます。

そしてボーカルスタイルの変化。先にも書きましたが、ソプラノからアルトに声域が変わっています。たぶんそのためだと思いますが、もともとはっきりした起承転結が無いメロディを書くジョニが、さらにとらえどころが無くなっています。良い面と悪い面がありますが……。

各アルバムから代表曲紹介

各アルバムからおすすめの曲を紹介します。

Night Ride Home (1991)

自分が 90 年代ジョニを見直したきっかけになった作品です。全体的に爽やかな空気が流れていると思います。

Night Ride Home

ジョニといえば移動しているときの歌が多いですが、これもその中の一つです。メロディも爽やかで比較的分かりやすい。

虫の声の SE が入っているのが特徴的。よく、虫の声は日本人以外にはノイズに聞こえると言いますが、その割にはけっこう虫の声を使った曲が多いように思います。XTC とか。

Nothing Can Be Done

妙な中毒性がある曲です。ジョニとしては珍しく(?)分かりやすいリフがあります。サビの「Oh Nothing Can Be Done」の「Oh」が好きで、一緒に歌いたくなります。

Turbulent Indigo (1994)

アグレッシブな音使いが聞けるアルバムです。シンセサイザーの使用が多いのも特徴。あと歌詞が強い。

Sex Kills

前に停まった車のカーナンバーが"Just Ice"だったのを見て、"Is Justice Just Ice?"という疑問を抱く。そして"Sex Sells Everything, Sex Kills..." という歌詞のシチュエーションが凄まじい曲です。

実はプリンスに影響を受けている曲なのではないかと思います。音色は違うけれど、リズムのパターンが似ている気が。

The Magdalene Laundries

マグダレン洗濯所とは、「堕落した」女性を収容していたとされるカトリックの施設のことです。歌詞ではレッテルを貼られ、辱めを受けた女性たちの姿を情感を込めて描写しています。

シンプルなエレキギター弾き語りに加え、パッド的な(そしてパッドにしては音がでかい)シンセサイザーが入っています。70 年代ジョニの延長線上でありながら、さらに進化したような曲です。

Taming the Tiger (1998)

プリンス的なというか、スライ・アンド・ファミリーストーン的なというか、一つの楽器を敷き詰めず、複数の楽器を使って音を置いていくアレンジがさらに一歩進んだアルバムです。

一方で、同じような印象の曲が多いアルバムでもあります。

Man from Mars

一瞬デヴィッド・ボウイかと思ってしまったけど関係ないです。ジョニに多い、失恋後に相手の不在を噛みしめるような曲です。

I call and call The Silence is so full of sounds You're in them all I hear you in the water

という歌詞が悲しくてとても素敵です。

The Crazy Cries of Love

こちらも恋愛がらみだけど、心温まる内容。

In the back booth of an all night cafe Two dripping raincoats are hanging

レインコートがかけられているだけなのに、なぜか二人の笑顔が見えるようなくすぐったさを刺激される歌詞です。

そういえばこのアルバムはジャケットが直筆(と思われる)の自画像なのですが、他の自画像に比べ明るい印象です。それがこの曲には似合います。

まとめ

90 年代のジョニも素晴らしいです。次は 80 年代を聴き込んでいきたいと思います。