7/4/2025

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作曲・草野正宗 スピッツの作曲における特徴

前置き

スピッツといえば、草野正宗による暗示的な歌詞や、心地いいドラム、うねりまくるベース、寄り添うようなギターアルペジオ、そして草野マサムネの歌声が特徴ですが、作曲もまた独特のものがあります(全部やないか)。

この記事ではスピッツの楽曲のほとんどを作曲している草野正宗(作曲時のクレジット表記)の、作曲法や特徴を考えてみます。

取り入れられるものが、必ずやあるはずです。

参考にしたのは、DOREMI から出ている「スピッツ ギター弾き語り 全曲集」です。「さざなみ CD」までの楽曲が収録されており、歌詞、コード進行、メロディが掲載されています。

特に歌詞の下にコードが書かれているいわゆる「コード譜」と、普通の楽譜の両方が載っているのがありがたいところです。当時 3,800 円もしましたが、損したとは思いません。

メロディ - フレーズの上下動

草野正宗が書くメロディは、フレーズを上下に平行移動することが多いです。

例えば「ヒバリのこころ」の A メロ部分では、

僕が君に出会ったのは

の部分が F 音を基本に、D 音に着地で、

冬も終わりのことだった

の部分が E 音を基本に、C 音に着地しています。

つまり同じ音型のフレーズを 2 度(一音)下げて繰り返しているのです。

このフレーズの並行上下移動は、スピッツの楽曲にとても多く見られます。

「胸に咲いた黄色い花」の A メロ部分では、

月の光

の部分が F#音からの上行フレーズ

差し込む部屋

が G 音からの上行フレーズです。

今回は同じフレーズを 1 音(2 度)上げている形ですが、ただでさえ上行フレーズなのに 2 度上がるので高揚感が出ていますね。ね。

別に 1 音(2 度)である必要はなく、3 度や 4 度変えても良いです。

例えば「チェリー」の A メロ、

君を忘れない 曲がりくねった道を行く

は C 音基本のメロディ -> A 音基本のメロディです。度数でいうと短 3 度下がっています。

このように同じフレーズを使い回すことで、メロディを印象付けつつ、展開も作ることができます。

メロディ - 実は器楽っぽいメロディ

草野マサムネのボーカルと歌詞の印象のせいで、なんとなく歌謡曲っぽいイメージがありますが、スピッツのメロディは器楽的だと思っています。

器楽的の定義を整理すると(自分の中で)

  1. 鼻歌的でない

  2. 大きな音程差

  3. アルペジオ的な動き

  4. 反復するフレーズ

などが挙げられるかと思います。

4.の反復は上の項目でも取り上げましたが、スピッツのメロディはフレーズを繰り返すことが多いです。

1.の鼻歌的というのはまた感覚的ですが、例えば、ペンタトニックスケールを適当に上下動するメロディは鼻歌的と言えます。

2.の大きな音程差は、例えば「サンシャイン」のサビです。

サンシャイン しろい

の「サンシャイン」の部分で G -> A と 短 7 度上に上がっています。「白い」の部分も C# -> B と短 7 度上で、しかも全体が上行しています。

ついでにいうと、あまりテンションノートを使わない草野正宗ですが、ここの「サンシャイン」、「白い」には 9 度のテンションが使われています。

歌いにくいと思います……。歌いにくさが逆に器楽っぽさを出しているのかもしれません。

3.のアルペジオ的な動きは、例えば「愛のことば」の A メロです。

限りある未来を 搾り取る日々から

「限りあ」の部分がアルペジオ的な動きで、F -> A -> C -> E と上行しています。Fmaj7 のコードをイメージしていると思われます(が、バックのコードは違います!)

「しぼりと」もそれに続いて、 D -> F -> A -> C と上行しています。3 度下行して繰り返しているパターンでもあります。

このように、スピッツのメロディは器楽的な要素が多く含まれています。

想像するに、草野マサムネはギターを弾きながらメロディを作っているのではないかと思いますが、それにしては「単音連打」的なメロディも多いのです。謎です。

メロディ - 単音連打

ブルーハーツからの影響直系の「8 分音符を連打する」メロディも多いところです。

中期からはブルーハーツからの影響はあまり見られなくなりますが、それでも「8 分音符音符を連打する」メロディは生き残っています。

例えば「ヒバリのこころ」の A メロ部分です。

僕が君に出会ったのは 冬も終わりのことだった

この部分は、8 分音符で「僕が君に出会ったのは」の部分が F 音を連打し、「冬も終わりのことだった」の部分が E 音を連打しています。

コード進行 - II7 の積極的な使用

スピッツの楽曲では、II7 のコードが積極的に使われています。

キーを C メジャーだと仮定すると、D7 のコードにあたり、構成音は(レ - ファ# - ラ - ド)です。

このコードにはいくつかの文脈があり、例えば「空も飛べるはず」のサビに出てくる D7 コードは、G に向かうドッペルドミナントの役割を果たしています。

C G Am | F G C | F G Em7 Am | D7 G

また、平行調のマイナーキー Am における 4 度のコードをイメージしていると思われる場合もあります。

次に挙げたのは「冷たい頬」のサビ部分です。

G E7 |Am D7 | F G | C

また、II7 はトニックの変形(トニック・ディミニッシュ)として使われることもあります。

例えば「夢じゃない」の A メロ部分です。

C G E7 Am | G D7 | F C D7 | F C D7 | G

このコード進行はよく分からないのですが、最後の D7 以外ドッペルドミナントとしての効果を持たないので、トニックの変形かなと思います。

コード進行 - メジャーとマイナーの境界を行く

スピッツのコード進行はシンプルだとよく言われます。

実際、そうなのですが、シンプルだけに解釈が多義的になることもまた多くあります。

例えば「プール」では A メロが C 始まり、サビが Am 始まりです。転調的な動きを挟まずにぬるっとメジャー・平行調のマイナーを行き来しています。

同様の動きは「愛のことば」でも見られます。

アレンジ - 半端な小節数・拍子数への意識

スピッツの楽曲がともすれば歌謡曲になりそうで微妙にロックバンドを保っているのは、一つには演奏の強度が高いことです。

しかし楽曲自体も、演奏したときの形を意識しているように思います。

半端な小節数・拍子数はこの表われであるかと。

例えば「美しい鰭」の A メロは 7/8 拍子で、B メロは 4/4 拍子です。

「うめぼし」には 2/4 拍子の半端な小節があります。

このような半端な小節数・拍子数自体が演奏の強度を高めているわけではないですが、草野正宗が演奏を意識して作曲しているのは確かだと思います。

終わりに

以上、スピッツの作曲における特徴をいくつか挙げてみました。

  • メロディの上下動
  • 器楽的なメロディ
  • 単音連打
  • II7 の積極的な使用
  • メジャーとマイナーの境界を行くコード進行
  • 半端な小節数・拍子数への意識

これらの特徴を取り入れることで、作曲に新しい視点を加えることができるかもしれません。

それほど難しい技術は無いと思うので(半端な小節数・拍子数は演奏が難しいですが)、ぜひ試してみてください。

#スピッツ #作曲 #コード進行 #メロディ #草野正宗